read the atmosphere

気候変動と科学と社会

〈書籍メモ〉〈Image Politics of Climate Change〉The Colour of Risk: An Exploration of the IPCC’s “Burning Embers” Diagram

今年4月に出た"Image Politics of Climate Change"のchapter 2に収録されている論文だが、以下に示す論文の再掲になっている。

  • Mahony,M. and Hulme,M. (2012) The colour of risk: an exploration of the IPCC’s ‘burning embers’ diagram Spontaneous Generation: A Journal for the History and Philosophy of Science 6(1), 75-89

1. Seeing climate change

2. The color of risk

3. Epistemic transformations

4. An icon of late modernity

5. Conclusion

 

1. Seeing climate change
IPCC、burning embersダイアグラムとreason of concern
 
2. The color of risk
AR3、懸念の理由、5つ、可視化とテキストの統合
 
リスクの可視化、先行研究、信号機によるリスクの可視化とマネジメント、気温と海面の上昇を緑と黄、赤で表現、印刷では灰色の濃さで表現、緑と黄は1度、赤は2度、2度は政策目標、逸脱防止装置
 
これらのダイアグラムは観測された証拠の専門家の判断、将来予測、リスクの規範的判断の組み合わせ
 
条件のない表現の理念や物理的リアリティの相似形が目的の定量的な科学的可視化とはちがって、閲覧者の解釈は明らかにデザインされた選択や規範的な要素によって誘導されている
 
信号機はburning embers ダイアグラムに直接的な影響を与えた
 
赤色、危険、恐れ、暴力、情熱、西洋文化
 
3. Epistemic transformations
危険な人為的干渉(DAI)の積算密度関数、専門家のコンセンサスとして扱われた
 
気温の上昇を、将来の気候のインパクトの不確実な判断からリスクや危険の定量的な外形への変形として分析、曇らせた
 
認識論的な変形は、リスクの可視化の課題とコンセンサスの力の両方を示している
 
リスクの計算には、認識論的、存在論的
倫理的な不確実性が内在、社会の指向性を反映
 
知識の社会的組織化は認識論的な権威の重要な資源となる
 
IPCCはコンセンサスを生産する権限をもつ、コンセンサスの追求はIPCCの強靭さと脆弱さの両方の元であることが言われているにもかかわらず、コンセンサスのとれた科学という観念は議論の場でおおきな力を持つ
 
コンセンサスは認識論的な規範や価値の表明、コンセンサスのかたちの表現を通して権威は得られつつあるが、burning embersダイアグラムは認識論的共同体をこえていつも広いコンセンサスを得ているわけではない。
 
BEダイアグラムはAR4でも使われた、鍵となる脆弱性、懸念の理由はテキストとして改良されたがBEダイアグラムは最終報告書には載らなかった
 
政府による抗議やIPCCのドラフトプロセスのタイトな時間スケール、WG2ヒエラルキーの特定の分析フレーミングへの確かな反発の組み合わせはAR4から改定されたBEダイアグラムを除くことを共謀した
 
改定前と後では赤の部分が増えているがこれはリスクの存在論的な状態の変化を表しているのではなく、むしろ科学的な理解や判断の変化を表している
ダイアグラムはこれらの判断の合意の合金を表現することが目的、著者は公然とこの知識の生産と統合のモードにおける潜在的な主観性と関わっている
 
認識と、このような判断を生む社会的、認識論的なプロセスは外部の観察者からは見分けにくい
 
4. An icon of late modernity
懸念の理由は、1990年の気温レベルを基準にしている、自然の気候変動よりも人為的な気候変動のみの危険を特定しようとしている
 
自然から人間へという逆の精製は、危険な人為的干渉という政策の質問へのダイアグラムの直接的な関与の機能である
 
これは複雑な自然の特性よりも、線形的で、直接的な因果関係の人為的な気候のイメージと関係した危険のヒューリスティックとして機能する
 
BEダイアグラムはハイブリッドフォーム、再現的とヒューリスティック、主観と客観、組織化された、非決定論的
 
一方で確実な科学的な規範への挑戦、手に負えない不確実性の問題を伴う競合する認識論の複雑に絡み合っている、後期近代のリスク社会を特徴づけている
 
ベックとギデンズによると、工業化された社会ら後期近代の状況を経験しはじめている
 
後期近代社会は未来に気を取られている、ハザードの可能性やリスクの社会的許容度の計算、コントロールするため
 
後期近代な偽りの容易な計算できる種類のリスクによって特徴づけられる、BEのぼやけた色は科学的な調査の目的と政治的な懸念としてのリスクの矛盾した社会的関係の例になっている
 
5. Conclusion
気候変動がどのように可視化されてきたか
BEダイアグラムの例、主観的な専門家の理屈の実践はダイアグラムの理屈の需要と両立できるか否か
 
リスクの観念、認識論的、規範的に高度に複雑、とくに気候変動の文脈では
 
リスクの完全に客観的なアセスメントは無理、BEダイアグラムの著者はこのような判断の不可避的な主観性を知るべき
 
ヒューリスティックツールとして、いつ(何度で)危険なのかがわかる
 
表現として、なにが表現されているかという不透明性がある
 
科学的知識の体型がカラーの配列に凝縮されるときに不可避的にラトゥールのいうリファレンスの喪失がおきる
 
可視化を通じた気候変動のコミュニケーションは翻訳だけに頼っているのではなく、ワルシュのいうところの連続性のパフォーマンスにも頼っている
 
この連続性の規範的土台への着目はダイアグラムの理論への需要やグラフィック空間の限界と調和しない
 
科学と政治のインターフェースで働く科学者は彼らの発見のコミュニケーションの方法を考えないといけない、認識論的不確実性や規範的多様性の認識とコミュニケーションがこのような努力の成功の中心になってくるだろう

 〈感想〉

 それにしてもHulmeさんはこういう仕事にも関わってるんだな。というか、UEAは気候変動に関するあらゆる学問を集めているような気がしている今日この頃。層の厚さがすごい。これはボクの推測だが、O'Neillさんとの共著もあるので、Hulmeさんが指導教官なんだろう。

気候変動と図像、といっても話は広く、これはIPCCの報告書に使われた図・グラフについての話。題名が「リスクの色」、となっているのはセンスがいいなと思った。別に本論では色が最重要のテーマではないのだが、もともと色なんて決まっていないリスクに色を付けて表現する際に、色を決める人の価値判断が不可避に入るが、科学的グラフゆえに、その価値判断が見過ごされがちであり、政策決定の参考資料であるはずにIPCC報告書としてはそれはよくない、みたいな話だとボクは解釈した。後半はベックやギデンズの後期近代社会論の話が絡んできて、おいおいと思ったが。勉強します。

 恥ずかしながら、BEダイアグラムがあることをさほど意識していなかったし、TARを詳しく見たことがなかったので、話題としては全く知らなかった。IPCCで使われる図像の決定過程は調べたら面白そうだとは思っていたのだが。