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気候変動と科学と社会

〈書籍メモ〉Christie(2001)The Ozone Layer[Chapter3]

 

  • Maureen Christie (2001) Chapter 3 Chlorinated fluorocarbons. "The Ozone Layer: A Philosophy of Science Perspective". Cambridge University Press. Cambridge. pp.17-22.

 

3章はフロンの発明について。この話は詳しくは知らなかったけど、エピソードとしてはかなり面白い。

まず、冷蔵庫の冷媒としてどんなものが求められているかの話。まとめると沸点が-50度から0度であること、毒性がないこと、引火性がないこと。アンモニアは冷媒としてかなり使われていた。毒性はあるけれども、利点もあった。ふたつある。ひとつは刺激臭があるのでもれるとすぐ気付くことができる。もうひとつは水溶性が高いこと。漏れても水をかけると溶けて処理できる。アンモニアは腐食性がかなり小さい。引火性はないが、ある条件では爆発する可能性もある。二酸化硫黄は毒性、刺激臭、水への溶解性という点でアンモニアに似ていた。引火性はほぼないが、アンモニアより腐食性が強い。クロロメタンやブロモメタンはアンモニアよりも毒性は低いけど、においもしないし水にも溶けない。二酸化炭素は毒性はないし、引火しないし、腐食性も小さい。でも沸点が-78度なので気体だし、冷やすとドライアイスになってしまう。液体にするには圧力かけたりしないといけないのでコストがかかる。ブタンやプロパンは引火性があるし。そんなわけで冷媒として理想的な化学物質の研究がさかんだった。
GMの研究者だったミジリーがCFCを発明したのにはふたつのセレンディピティがあった。ひとつはフッ素化合物の融点をミスプリントしてある文献を読んだこと。本当は-128度なのに-15度と書いてあった。間違えて書かれてなかったらフッ素化合物なんて研究しようと思わなかった。もうひとつは、フッ素化合物を合成して動物実験をしたら「たまたま」死ななかったこと。もともとフッ素化合物が猛毒だというのは常識だった。でもミジリーはすべてがそうではないんじゃないかと考えてある試薬瓶の試薬を使って試してみた。で、成功した。おっと思う。でも次にほかの瓶からつくったやつはだめだめだった。これがだめだった理由は不純物がホスゲンになって、これによってモルモット[guinea pig]さんが死んでしまったということがわかった。つまり、合成したフッ素化合物は無罪だったということだ。でも最初にモルモットさんが死んでいたら早合点して諦めてただろうとのこと。それにしても動物実験ってこの時代は普通にされてたのか。いまはだいぶ厳しくなっているんじゃないだろうか。続く安全試験で不思議な結果が得られた。CFCをすわせた後普通の空気を吸わせると回復するが、すわせないと死んでしまう。けっきょくこれはCFCの毒性じゃなくて単純に酸素が足りなくて酸欠で死んでいたことがわかった。当時は現在ほど厳密な試験体制ではなかったので、酸素じゃなくて普通の空気を混ぜて試験をしていたのだ。ミズリーが合成した化合物は、冷媒としての性能に加え、無害で、引火性がなく、化学的に安定で反応せず、腐食性もない、夢のような物質だった。さらに素晴らしいことに、工業的な生産コストは経済的に理想的だった。この化合物はFreonと名付けられ、市場に出された。その性能は冷媒だけでなく、スプレー缶や洗浄剤など、いろいろな分野で輝かしい活躍を見せた。
ミズリーがフロンの二大特性、つまり安全性と非引火性を市民にどうアピールするかという方法がウィットに富んでて面白い。彼はフロンを自分で吸い込み、ローソクの炎に息として吹きかけて見せたという。ははは。これ今やったら叩かれそうだなあ。
1970年代、世間の環境意識が高まり、化学物質の使用にたいする制限がきつくなってきた。殺虫剤として一時期広く使われたDDTは、マラリアを根絶し、害虫を駆除して飢饉を防ぐことでかなりの貢献を果たしたが、いっぽうで広く環境中に拡散し、食物連鎖のなかで生物濃縮が問題になっていた。フロンもまた環境中にたまりつつあったけど、DDTとの最大の違いはこの物質が極めて無害で反応しないという点にあった。