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気候変動と科学と社会

〈論文メモ〉Sharman(2014)Mapping the climate sceptical blogosphere

  • Amelia Sharman (2014) Mapping the climate sceptical blogosphere. Global Environmental Change, Volume 26: 159–170

1. Introduction
2. Knowledge, networks and contestation
3. A networked blogosphere
4. Method
5. Results
6. Analysis
7. Conclusion

 

著者は科学的知識にかかわるブログ上での活動、特に気候科学に関わる活動とブログ間のネットワークについて研究している。その動機は、英語圏において温暖化懐疑論と呼ばれる主張を行う人々が、伝統的な主流の気候科学とは異なる形態で、つまりブログネットワーク上で、気候科学の主流とは異なる科学的知識を生産、共有しており、その活動が社会的にも影響力を持ちつつある、という社会的現象にある。特に、科学的知識の生産については、従来アカデミックにて公的に認証された人々によるジャーナル共同体内でのものが知られ、それについてはよく研究されている。一方、モード2、あるいはポストノーマル・サイエンスとよばれる新たな科学的知識形成の形態として、ネット上での、開放的で、参加者を制限しない、知識生産・共有・拡散のネットワークが出現しつつある。これは特に気候科学、とくに人間活動による地球温暖化に関する科学の領域で特徴的なものである。

ブログ活動による科学的知識生産体制と従来の体制との違いとしては、参加者がアカデミックな認証(つまり博士号認定や専門家集団内での学問的評価)を受けているひとに限定されず、また、情報がネット上で原則として無料で公開されているために、従来の学術専門誌のように、研究機関に所属していない人にとっては閲覧が困難であるということがない、というようなアクセス性の高さが特徴である。また、ブログ上ではリンクを張ったり、議論を行ったりすることによる知識の形成や共有、あるいは拡散があり、懐疑的知識のネットワークが存在する。これは従来の伝統的な方法により生産された科学知識の代替物として、懐疑論者の間で認識されつつある。

著者はこのような背景から懐疑論ブログのネットワークについて、ソーシャルネットワーク分析の手法を用いて分析し、ネットワークのなかで特に中心的な位置にある3つのブログを特定した。また、それらの中心的なブログがどのような論点を焦点にし、どのような役割を果たしているかを分析している。

これら中心的なブログの特徴は、ブログが取り上げる内容が、意外にもほとんど地球温暖化の科学的な側面に限定されているということである。著者はブログが取り扱うトピックを、科学、政治、その他に分類し、調査した結果、中心的なブログにおいては科学の割合が非常に高いことが分かった。中心的でないブログをランダムに20取り上げ、同様に分類したところ、これらのブログではトピックとして科学だけでなく、政治に関するものの割合が大きかった。

中心的なブログが話題を科学に限定することによる機能について、これらのブログは気候科学研究と非専門家の間で通訳者としての役割を果たすだけではなく、既存の気候科学に対する独自の解釈を新たに行うことで、主流の気候科学の見解を知らない非専門家の知識の隙間を埋め、主流の専門家集団と対抗する専門家集団としての地位を得つことに成功しているという。そして彼ら対抗的専門家の持つ影響力はネットだけではなく、現実の社会的意思決定にも影響力を持ちつつあると著者は指摘する。これら懐疑ブログの社会的重要性は増してきているのだ。

さて、著者はギボンズのモード2やラベッツたちのPNS論を援用して、これら新しい知識生産の形態を説明しようとしている。ここでラベッツらのPNS論は科学形態の説明理論として紹介されている。*1

 

[関連する文献のメモ]

*1:思うにラベッツ自身も、特に気候科学領域に特徴的な、ネット上でのブログ活動による主流の科学的知識生産の代替となりうる科学知識生産の形態を、EPCの実例として考えているのではないだろうか。ただしこの点については私は無批判的に同意できない。