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気候変動と科学と社会

〈論文メモ〉Zaval et al.(2014)How warm days increase belief in global warming

  • Lisa Zaval, Elizabeth A. Keenan, Eric J. Johnson & Elke U. Weber (2014) How warm days increase belief in global warming. Nature Climate Change 4, 143–147

Main results
Conclusions
Methods

+Supplementary Information 

 

・Sunsteinの記事

なんだか毎年のことになっている気がするけど、先月大規模な寒波が米国を襲った。英語では記録的な寒波のことをSnowpocalypseとかSnowmageddonと言うとか。2009年の記録的大寒波の折につくられた造語だそう。法哲学者Cass R. Sunsteinの”What Global Warming? Pass Me a Blanket”という記事を読んだ*1

地球温暖化や気候変動などの言葉が頭の片隅にある人は、冬の特別寒い日に「温暖化はいったいどこに行ったんだ?」と思ったりしたことがあるかもしれない。あるいは特別暑い日に「やっぱり温暖化やばい」とか。Sunsteinの記事は、この傾向が人間にとってわりと普遍的なものかもしれないことを示した研究結果を紹介したものだ。

コロンビア大学でひとの意思決定を研究しているEric Johnson, Ye Li and Lisa Zavalは米国で600人を対象にある調査を行った。調査の結果、調査当日の気温がふつうよりも暖かいと回答した人は、ふつうより寒いと回答した人よりも、地球温暖化が実際に起こっているという確信や、それを懸念している傾向が有意に大きいという結果が出た。しかも実際の気温偏差との比較から、どうやら温暖化していると信じているから温かく感じるというわけではないらしいことがわかった。つまりその日が暖かい(と感じる)かどうかが人々の温暖化への態度に実際に影響しているらしい。

これは意思決定研究でいう「属性代用 attribute substitution 」によって説明されるらしい。属性代用とは、人が科学や政治や統計が関わるような難しい問題を評価するにあたって、より簡単でてごろな情報を使うという傾向のことだ。今回の文脈では、人びとは地球の気温が上昇しているかどうかを判断する手がかりとして、より手ごろなその日の気温という情報を無意識に使っているかもしれないということになる。

Sunsteinといえばアメリカの法哲学者として有名だが、「実践行動経済学」の共著者としても知られるように、意思決定理論についても造詣が深い。今回の話題はSunsteinらしいものだと思った。

ところで、せっかく研究者の名前まで出しているのに、出典が書かれていないのはちょっと残念。なんでだろう。おそらく、出典はこれだと思う。

  • Li, Y., Johnson, E. J. & Zaval, L. (2011) Local warming: Daily temperature change influences belief in global warming. Psychol. Sci. 22, 454–459.

偶然にも上記論文の共著者2人が出した発展研究といえる論文(この記事で紹介するもの)は以前目を通していて、しかしメモを公開するまでには至っていなかった。以下は論文の自分なりの要約とメモ。

 

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・イントロ

NASAの科学者だったジェームズ・ハンセンが上院の公聴会で講演したのはとても暑い日だったのは有名な話だが、いくつかの先行研究は、ある一日の主観的な気温が実際に気候変動への人々の信念に影響を与えていることを示している。

ひとびとの直近の気温の異常さの知覚(主観的気温偏差)が地球温暖化への確信や懸念の変化に因果的に関係することを、著者らは the local warming effect (LWE)と呼んでいる。これまでの研究で短期的な気温の変動やローカルな気象現象が気候変動の認識に影響を与えていることを示す証拠は積み重ねられてきているが、この現象がなぜ、いかに起こるかについての心理学的なプロセスは完全には調べられていない。この論文は、その実証的な説明を得ることを目的としたものだ。

 

・3つの仮説的メカニズム
著者たちはLWEを説明する仮説として、次の3つのメカニズムを挙げる。
 

フレーミング効果

 選択肢につけられたラベルが信念構築に影響を与えることがある。多くの場合について、設問の語彙を変えると異なる答えが得られる。この現象は意思決定研究では「フレーミング効果 framing effect」として知られている。今回の場合では、"global warming"という語は熱に関係した認知を植え付け、気温上昇に関連付けられる可能性があるし、一方で"climate change"はよりひろい気象現象の範囲ととられやすいことが予想される。

 

科学的知識の不足・誤認

長期的な気候の変化と短期的な気温の変動が強く関係しているという誤解や科学的知識の不足がLWEの原因である可能性が考えられる。

 

属性代用ヒューリスティクス

 個人が判断を下すときにより的確だがアクセスしにくい情報(例、全球的な気候変動のパターン)の代わりにより関連性が低いが使用しやすい情報(例、その日の気温)を用いることによってLWEがおこる場合で、このような行動は「属性代用」として知られる。これはとても不合理に思えるかもしれないが、ほかの心理的プロセスが属性代用にもっともらしさを与える。つまりこういうことである。異常に暖かかい/寒い気象状況の知覚は、記憶のなかにあるほかの異常に暖かかった/寒かった気温イベントの情報をより利用しやすくし、これによってそのようなイベントの出現頻度の見積もりを変化させ、温暖化への態度に影響を与えている。

 

・5つの実験と結果

上記の3つのメカニズムのいずれがLWEの原因であるかを調べるため、次の5つの調査を行った。基本形は、回答者は3つの質問にこたえる。「温暖化の確信はどのくらい強いか」(5段階)。「温暖化への懸念はどのくらいか」(5段階)。「調査実施当日はふつうと比べてどのくらい暖かいと思うか」(ふつうよりかなり寒いからふつうよりかなり暖かいまでの5段階)

 

1.Study 1

"global warming"/"climate change"のちがいによるフレーミング効果がLWEの原因であるかを調べるために実験がデザインされた。温暖化の確信/懸念の程度を従属変数、主観的気温偏差と語句(フレーミング)を独立変数として、重回帰分析。結果は、主観的気温偏差の主効果は確信/懸念に対して有意だが、語句(フレーミング)と主観的気温偏差の相互作用は確信/懸念いずれに対してでも、有意でなかった。

 結果、LWEの原因がフレーミング効果であるという仮説を支持する証拠は得られなかった。

 

2.Study 2

長期的な気候の変化と短期的な気温の変動の関係についての科学的理解がLWEの原因であるかを調べる。被験者の一方のグループには上記の関係について説明する文章を読ませ、もう片方のグループには科学に関する別の話題の文章を読ませる。被験者には科学をわかりやすく説明する方法を開発するための調査だと伝え、実際の目的は伏せておく。その後はおなじく暖かさと確信/懸念の程度を回答させた。

結果、正確な科学的知識の説明を加えても、LWEを取り除くことはできなかった。重回帰分析の結果、主観的気温偏差の主効果は有意であったが、科学的情報の主効果は有意でなかった。主観的気温偏差と化学的情報の相互作用も有意でなかった。以上より、科学的知識の有無が温暖化の認識に影響を与えているという証拠は得られなかった。

 

Study 1およびStudy 2の結果から、フレーミング効果仮説と科学的知識の不足仮説ではLWEが説明できないことがわかった。

Study 3では、属性代用ヒューリスティクスについて調べた。このヒューリスティクスがいかに温暖化の確信/懸念の程度に作用するかについては次のメカニズムが仮定された。つまり、異常に暖かかい/寒い気象状況の知覚は、

(1))記憶のなかにあるほかの異常に暖かかった/寒かった気温イベントの情報をより利用しやすくし、

(2)これによってそのようなイベントの出現頻度の見積もりを変化させ、 

温暖化への態度に影響を与えている。

このメカニズムについて詳しく検討するためにつぎのStudy 3a, 3b, Study 4を行った。

 Study 3では上記の(1)、つまり気温の主観的な異常さのアクセシビリティの効果を調べた。

 

3.Study 3a

Study 3aはプライミング法を用いた。これまで同様に、当日の主観的気温について回答してもらった後、被験者にリフレッシュのためと説明して単語を文法的に正しい順番に並べ替えてもらうタスクをこなしてもらう。被験者は3つのコンディショングループにわけられており、それぞれ「暖かさ」や「寒さ」に関係する語句と中立的な語句がタスクの語のなかに含まれている。これらの異なるタスクをこなした被験者グループのあいだでの、主観的気温偏差と確信/懸念の結果を重回帰分析した。結果、「暖かさ」に関係したタスクを割り振ったグループは温暖化の信念と懸念のが有意に増大した。

 

4.Study 3b

Study 3bでは、主観的気温偏差の対象を当日ではなく調査日の前日の気温にした。これは情報のアクセシビリティとして、時間的近さ(recency)を調べるものである。つまり、人々はもっとも最近の利用可能な気温(つまり、当日の気温)を頼りにするため、過去の気温(たとえば、昨日の気温)の情報が温暖化の認識に与える影響はより小さくなると予想される。昨日の暖かさと確信/懸念の程度と、今日の暖かさと確信/懸念の程度をそれぞれ重回帰分析した結果は、昨日の主観的気温偏差の確信/懸念への効果は有意でないが、当日の主観的気温偏差の確信/懸念への効果は有意であった。いずれの気温の情報も最近体験した利用可能な情報であるにもかかわら重要な違いは、昨日の気温では被験者は「記憶」から呼び起こすことになるが、当日の気温では感覚的な情報としてのごく最近の「経験」であるためと考えられる。

 

5.Study 4  

 Study 4では、上の(2)について調べる。被験者はこれまでと同様の質問に加え、「過去1年間で、歴史的な平均と比べて、ふつうよりも暖かいと思われた日は何パーセントか?」という問いに回答する。この割合はpercentage days warmer (PDW)と呼ばれる。

結果は、調査当日の気温がふつうよりも暖かいと回答した人は普通よりも寒いと回答した人に比べて、PDWを多く回答していた。PDWと主観的気温偏差、温暖化の確信/懸念には正の相関がみられた。当日の気温の認識が過去の気温イベントの想起に影響していることが示唆された。Study 4の結果は、当日の気温をふつうより暖かいと感じるひとは、過去1年間のふつうより暖かい日の頻度をより過大評価しやすいことを示唆している。

 

 〈コメント〉

正直、私は心理学素人なのでちゃんと読めているのかについてまったく自信がないです。

ただ、これは素人の印象なのだが、被験者への問いの設定が曖昧すぎる気がした。せっかく温暖化の認識について調べるのだから、もうすこし中身のある質問でもよかったのではないか。似たようなことは温暖化のリスク認知の研究として、意思決定研究の分野以外でもなされているわけで、互換性を持たせた実験デザインのほうが後にいろいろ役に立つのではないか、とか思ってしまった。それにしても、事前に科学知識についてのレクチャーがあっても依然としてLWEがみられたという結果は、個人的には印象的だった。

一般にこの結果が妥当だとして、温暖化認知にこのような特性があるとすれば、この知見をどう使うかは科学コミュニケーションの問題だと思う。著者たちは最後に、アメリカが気候変動に対するスタンスを変えないなら気象予報士たちは気温の異常さを認知的により利用可能なかたちで伝えることを助言されるだろう的なことを述べているが、これが皮肉でないなら、ちょっと専門家としてナイーブすぎるだろうという感じがする。ていうか、認知的な利用可能性を高めるような伝え方とはなんぞや。

 

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