read the atmosphere

気候変動と科学と社会

〈論文メモ〉Patt(2007)Assessing model-based and conflict-based uncertainty

  • Anthony Patt (2007) Assessing model-based and conflict-based uncertainty. Global Environmental Change, 17: 37–46
 
1. Introduction
2. Model-based uncertainty, conflict-based uncertainty, and the IPCC
3. Multiple views on decision-making under uncertainty
  3.1. Economic models
  3.2. Psychological models
  3.3. Social models
  3.4. Different models and climate change uncertainty
4. Experiment comparing model-based and conflict-based uncertainty
  4.1. Experimental design
  4.2. Experimental results
  4.3. Discussion
5. Conclusion: framing uncertainty
  
IPCCのようなアセスメントパネルには科学的不確実性についてのコミュニケーションに関する取組みが求められる。著者は不確実性を二つのタイプに分けて考える。モデルに基づく不確実性と対立に基づく不確実性である。前者は不確実性の存在や大きさについての専門家あるいは専門家グループによる単一の言明による不確実性であり、これはシミュレーションモデルによる数値的な不確実性と一致する。後者は専門家の見解の不一致による不確実性である。
IPCCの作成する不確実性に関するガイダンスでは、可能性と確信度という異なるツールを用いることで不確実性を取り扱うことを試みているものの、この2種類の不確実性を区別して扱ってはいない。
著者は不確実性下での意思決定に関する研究を、経済学的、心理学的、社会的観点からレビューする。不確実性のフレーミングは問題の認識や行動へのモチベーションに影響を与えると考えられるためだ。
期待効用理論に代表される経済学的な意思決定理論において、不確実性に関する情報はすべて確率に変換され、人々は決定の結果による効用を最大化するような意思決定を行うことが前提とされている。経済学的な意思決定理論のもとでは、2つの不確実性はいずれもおなじく根拠となる情報として還元されるので、論理的に同等である。しかし実際の意思決定では、ひとはある種のバイアスを持った選考をしがちであることがわかっている。このような行動経済学的なアプローチは心理学と経済学をバックグラウンドにしているが、依然として効用の最大化という目的を前提としていた点で、心理学的な意思決定理論とは異なっていた。一方心理学的な意思決定理論では、ひとびとは必ずしも効用の最大化を意思決定の目的とは仮定しない。ひとの意思決定には確率的情報だけでなく、ヒューリスティクスや情報の提供源、情報取得における個人的経験、社会的関係性などが影響する。心理学的な観点からは、ひとびとは予め持っている信念に反する情報を得ても、それが行動へのモチベーションに影響を与えることは少ない。一方、あらかじめ抱いている信念を補強する情報を得た場合には、行動へのモチベーションは強められることになる。意思決定の社会モデルでは、意思決定や行動の社会的コンテクストが重要になる。
著者は2つの不確実性の記述の仕方が気候変動の不確実性の認識と行動への態度に与える影響を調べるため、大学生を対象に調査を行った。その結果、モデルに基づく不確実性と対立に基づく不確実性の二つの不確実性の表現の仕方では、与える印象が異なることが分かった。
いかにしてIPCCやほかのアセスメントパネルは、明白な政治的な判断を避けながら、不確実性についての情報をもっとも理解しやすく有用なものにできるだろうか?
著者による2つの提案。
1.アセスメントパネルは不確実性について可能な限り包括的な取扱いをする必要がある。これはIPCCは最近のガイダンスペーパーで向かいつつある方向性ではあるが、不確実性の科学的技術的側面を主に想定している点で不十分だ。不確実性の社会的経緯を含める必要がある。不確実性の社会的側面に注意を払うことによって、アセスメントパネルは不確実性についてのミスリーディングを避けることができるだろう。
2.アセスメントパネルは科学コミュニケーションの心理学的・社会的・政治的なニュアンスの幅広い範囲のガイダンスの統合を継続する必要がある。不可避的に、アセスメントパネルが不確実性のあらゆる側面について説明することはスペース上の問題から不可能であり、情報の単純化と統合の必要性がある。科学コミュニケーションの専門家は気候変動以外の問題でも、どこの部分の単純化がが最も効果的で、もっとも政治的過敏性がすくないかについての特定作業を支援することができる。
 
 [関連する文献のメモ]