〈記事メモ〉(2009)Christian Junge 2 July 1912 – 18 June 1996
- Ruprecht Jaenicke (2009) Christian Junge 2 July 1912 – 18 June 1996. Aerosol Pioneers, International Aerosol Research Assembly. http://www.iara.org/AerosolPioneers.htm
1.Education and Second World War
2.The US Career and the Chemistry of Atmospheric Aerosols
3.German Career
4.The Scientist and the Person
・科学的バックグラウンドと第2次世界大戦
1912年6月2日にドイツで生まれたユンゲは第一次大戦後のドイツの影響を受けながら育った。最初は化学を勉強しようと思っていたが、街頭で見た路頭に迷う化学者が描かれたポスター*1を見て考えを改めることにした。しだいに航空機に関心を持ち始め、航空技術にとって重要な気象学を専攻することに決めて、グラーツ大学に入学。彼がこの大学を選んだのは気象学者アルフレット・ウェゲナー*2がいたためだが、ウェゲナーは1930年の探検中にグリーンランドの氷上で亡くなってしまい、ユンゲはウェゲナーの元で学ぶことはできなかった。その後ユンゲはハンブルグとフランクフルトで気象学の研究を続け、大気凝結核に関する仕事で1935年に博士号を得た。フランクフルトで大学助手として凝結核の仕事に就いたあと、ドイツ気象庁に就職。
第2次大戦中、ユンゲは否応なしに気象庁と空軍の軍事的な関係に巻き込まれた。彼のWW2での最初の任務はプロパガンダに関するもので、プロパガンダのパンフレットを気象気球を使って東フランスに打ち上げることが指令だった。大戦中、従軍の気象予報士としてさまざまな戦地で軍事的な仕事を務めた。戦後、ハンブルグのドイツ気象庁へ戻った。
戦争から戻ったユンゲの専門的な立ち位置は経験を積んだ気象予報士であり、またよく訓練され化学に関心を持つ*3大気物理学者であった。これが彼の科学者としてのキャリアの基礎になる。ユンゲは気象予報よりも研究を好んでいたので、大学教授資格を取るためにフランクフルトに戻り、1953年に私講師の資格を得た。
・エアロゾル粒径分布
ユンゲの大気エアロゾル研究に関する貢献は3つに分けられる:エアロゾル粒径分布、エアロゾル化学、成層圏エアロゾル層だ。
エアロゾル粒径分布の仕事は彼の気象学的バックグラウンドが関係したといえるだろう。ユンゲは気象学者として訓練を受けていたので、まばらなデータから総観的なチャートをつくることに慣れていた。すべてのエアロゾル濃度のプロットが得られていなくてもとりあえず線を引くことにしたのだ。これによって最初の連続的なエアロゾル粒度分布が得られた。ユンゲが得た方程式はみごとな簡潔さで、同僚からは「ユンゲの法則」と称賛された。
・アメリカでの大気エアロゾル化学の仕事
ドイツでのキャリアは先行きが不透明と思われたので、ユンゲはアメリカ空軍のケンブリッジ研究センターからの誘いを受けてアメリカに渡ることにした。
・スプートニクショックと成層圏エアロゾル層の発見
研究の実施のために潤沢なリソースを与えられていたユンゲは、観測のために気球を打ち上げることにした。1961年の論文で、成層圏エアロゾル層の知見が確立された。彼の関心は化学にあって、収集した粒子の化学組成を調べ、硫酸の層であることを突き止めた。この層はいまではユンゲ層あるいは硫酸エアロゾル層と呼ばれている。皮肉なことに、この成功が予期せぬ研究プログラムの終わりをもたらしてしまった。硫酸エアロゾル層は宇宙起源のものではなく地球由来のものであることはあきらかだった。ユンゲの研究はもはや宇宙とのかかわりがなくなってしまった。
・ドイツでの仕事と大気化学の発展
〈感想〉
*1:これ、私の科学史の知識が足りなくて時代背景がよくわかりませんでした。第一次大戦後のドイツ化学はこんな感じだったのでしょうか。
*2:ウェゲナーは大陸移動説の提唱者として有名だと思いますが、気象学者(大気物理学)として仕事をしてきました。ゆえに「畑違い」の大陸移動説を提出した時、地質学者からの反応は必ずしもいいものではなかったとされています。
*3:これは私の勝手な想像ですが、少年期の化学への思いがいまだあったのかなと思いますがどうなんでしょう。
*4:オゾン層は単一膜のようなものではなく実際にはもっとブロード。
*5:CLAW仮説とかエアロゾルと気候が絡む面白そうな話はいろいろあります。エアロゾルの気候効果はまだ不確実で研究されているところなのですが、IPCCWG1のAR5にようやく雲とエアロゾルのチャプターができました。最近では成層圏エアロゾルは気候工学の観点からも注目されているようです。