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read the atmosphere

気候変動と科学と社会

〈論文メモ〉Petersen et al.(2011)Post-Normal Science in Practice at the Netherlands Environmental Assessment Agency

論文メモ 不確実性研究 PNS
  • Petersen, Arthur C., Albert Cath, Maria Hage, Eva Kunseler, and Jeroen P. van der Sluijs (2011) “Post-Normal Science in Practice at the Netherlands Environmental Assessment Agency.” Science Technology & Human Values 36 (3): 362–388.

 

PBLの理論的背景を説明してる部分だけメモ。

 

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科学と社会の関係について、Post-normal scienceという考え方の枠組みがある。この論文は、その枠組みを科学-政治-社会のインターフェイスにおけるよりよい実践のために応用しているオランダの環境評価機関の理論と取り組みを説明しているものだ。

科学という営みによって生み出された知識を社会的な意思決定に役立てようとするとき、そこでの科学の役割には伝統的にふたつの見方がある。

理想主義的な合理主義者の見方あるいは技術官僚主義的なみかた

科学的情報と政策決定のプロセスは完全に一致するのが理想とされる。この考え方の前提になっているのは、科学がもたらす知識は価値中立なものだという信念だ。この考えは科学者の不偏性や客観性が政治的対立を乗り越えるものだという考えのもとになっている。

プラグマティックな合理主義者の見方あるいは民主主義的見方

科学が政治に助言をする際に、ある種の政治性を不可避的に伴うことを受け入れる。この立場のアプローチは、オープンな議論によって、不確実性やあいまいさを特定することを目指すものである。

20世紀以降、現実の科学は価値中立ではなく、政治は不確実で複雑な問題に取り組まざるを得ないという状況があきらかとなった。
フントビッチとラベッツは、価値が論争的で、決定のステークスが高く、高い認識論的・倫理的な不確実性があるという文脈のもとでの問題駆動型の知識生産をPost-normal Scienceと呼んだ。PNSという枠組みのパラダイムは先の分類を使えば、プラグマティックな合理主義者の見方をとる。

PNSのパラダイムは次の3つからなる。

  • 不確実性のマネジメント
  • 知識生産における観点の複数性のマネジメント
  • ピアコミュニティの内的・外的な拡大

 ここでPNSと対置されるノーマル・サイエンスとは、真理の確立や「パズル解き」を目的とした知識生産の営みのことを指し、またこれらはピアレビューや妥当性検証による品質管理の手法を内部にもっている。しかしこれらは、科学的不確実性とステークスがともに高い問題の解決において、つまりポスト・ノーマルな問題領域の解決には有効ではない。

一方で、よく誤解されるが、PNSはノーマル・サイエンスの代替物ではない。PNSはこのような社会的問題の解決の戦略として見なされるべきであり、このような状況においてノーマル・サイエンスがもたらす事実は依然重要であるが、もはやその手法は有効ではないのである。品質保証の伝統的な方法はこのような状況の下では適用できない。妥当性や信頼性のための知識のテストとはべつに、社会的な頑強性のためのテストも必要となる。問題解決のためのポスト・ノーマルな知識生産の営みは、社会的頑強性を高めると同時に科学的品質を保証するような方法で組織されるべきなのだ。これがPNSパラダイムの目指すものである。

 

科学における不確実性の認識と方法論には従来的な2つのモデルがあり、PNSはこれらに加えて、もうひとつの新しいモデルを提案する。

不確実性を知識の欠如とみなす見方:欠如モデル

・欠如的観点においては、不確実性は可能な知識の不足だと理解されている
・不確実性はさらなる研究がなされれば自動的に消える一時的な問題だと見なされる
・この見方では、不確実性のマネジメントとは不確実性の削減のことであり、その前提として、科学は究極的には確実性を与えることができるという信念がある
・不確実性が削減できない場合は、不確実性はあたかも見つけ出され、正確に定量化されたものとして取り扱われる(平均値や標準偏差などによる統計的な取扱いがなされる)
・欠如的見方にもとづく方法論として典型的にみられる傾向は、より複雑で詳細なモデルをつくることである。モンテカルロ法ベイジアンネットワーク、そのほか定量的な技法を含むテクニックが適用される。
・このパラダイムの陥穽は、誤った確実性が作り出されてしまうことだ
・欠如的モデルはしばしば単一ディシプリンのノーマルサイエンスにおいてみられる

 

不確実性をコンセンサスの欠如とみなす見方:エビデンス評価モデル
・科学が政策に対して多様な意見を述べるとき、対立する確実性が出現することがある。この場合、提案される解決法は個々の研究結果を比較評価することで、科学的コンセンサスが重視される
・ここでは、問題の焦点は確実性を確立することから、確実性の度合いを確立するためのエビデンスの評価にうつる。IPCCのようなマルチディシプリナリな専門家パネルはこの目的のために設立されている
・このパラダイムの陥穽はコンセンサスの得られないことにはほとんど注意が向けられないことであるが、実際にはこのようなディセンサスが政策関連性が高いことがしばしばあるのである

 

 ポスト・ノーマルな不確実性の見方

・ポストノーマルなモデルでは不確実性を複雑なシステムに本質的なものだと見なす
・たとえば、コンピュータシミュレーションモデル、シナリオ、外挿法の使用の妥当性はその依拠する仮定自体の妥当性に依存しているが、このような仮定は原理的に正当化できない
・ポスト・ノーマルモデルのアプローチでは、より深い次元の不確実性についてのオープンな取扱いを求める。このような不確実性は問題のフレーミング、システム協会の選択、非決定性、無知、過程、価値付加、過小決定(おなじデータがいくつかの解釈や結論を許す)、組織的次元に由来するものである
・PNSパラダイムの陥穽はさきにふたつの方法論の限界を強調しすぎる点にある
・ガイダンスのなかではしたがってPNSパラダイムは相補的に使われ、コンセンサスアプローチや定量化アプローチにとってかわるものとみなされるべきではない

〈コメント〉

PNSの3つのパラダイムについて。

1つめの不確実性のマネジメントは、FuntowiczとRavetzがPNS概念に先行して取り組んでいたことであり、PNSの象徴的な特徴である。科学-政治インターフェイス研究においては、STSの分野ではPNSのほかにもいろいろな概念が提案されているが、科学研究への非専門家の参加という考えは共通したものとみなせる(Evance&Collinsが第2の波と呼んだ潮流の特徴)。PNSがこの論文のように公的機関での実践の理論的基盤になっている要因には、この不確実性のシステマティックな取扱いについての理論的・実践的な研究がPNSフレームワークの主柱として位置づけられていたことがあるのではないだろうか。

2つめと3つめはあえてノーマル・サイエンス的な言い方をすれば、それぞれ知識生産における主体の拡大と品質管理における主体の拡大ということになるだろう。ただし、PNSではこのふたつは再帰的な関係とされるので、明確に区別されるものではない。たとえば、コンセンサス会議のような参加型テクノロジーアセスメントはどちらかというと後者の文脈で考えられることが多いが、科学のガバナンスの文脈でいわれる「上流からの公共的関与」は従来の品質管理だけでなく、知識生産のフェイズからステークホルダーが関与することになるし、市民がみずから問いを研究機関に持ち寄り、専門家とともに問題解決を試みるサイエンスショップやコミュニティ・ベーズド・リサーチとよばれる形態もこれにあてはまるのではないだろうか。

拡大ピアコミュニティによるピアレビューと言う場合、厳密には3つめをさすことになるが、実際には「拡大ピアコミュニティ」という概念は、2つめと3つめを含む、より広いとらえかたをするほうが有益だと思う。

 

[関連するメモ]

〈書籍メモ〉〈Simulating Nature〉第3章 科学シミュレーションの不確実性の分類わけ - read the atmosphere :同著者(Arthur Petersen)の著書。