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気候変動と科学と社会

〈書籍メモ〉〈Simulating Nature〉第3章 科学シミュレーションの不確実性の分類わけ

Chapter 3:  A Typology of Uncertainty in Scientific Simulation

 

3.1 Introduction

3.2 Locations of Simulation Uncertainty

3.3 The Nature of Simulation Uncertainty

3.4 The Range of Simulation Uncertainty

3.5 Recognised Ignorance in Simulation

3.6 The Methodological Unreliability of Simulation

  3.6.1 The Theoretical Basis of Simulations

  3.6.2 The Empirical Basis of Simulation

  3.6.3 Agreement of Simulations among Each Other

  3.6.4 Peer Consensus on the Results of Simulations

3.7 Value Diversity in Simulation Practice

3.8 The Uncertainties of Simulation and Experimentation Compared

3.9 Conclusion

Petersenの著書の第3章は科学的なシミュレーションにおける不確実性を整理しようという試み。あんまりにも不確実性ということばで語られているものがごちゃごちゃしてよくわかってなかった自分の頭のなかを整理するのに役立った。Simulating Natureはたいへん参考になる本だが、ほかの章のメモも公開するかは未定です。

 

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不確実性という語はさまざまな意味合いで用いられていて、混乱状態にある。

不確実性の定義の典型例としては、'確実でないこと' あるいは '知識の欠如' とするものがある。
 
不確実性の定義の典型的な例:
Uncertainty ca be defined as a lack of precise knowledge as to what the truth is, whether qualitative or quantitative.(national Research Council 19961:161)
この定義によると、不確実性とは正確性 inaccuracy と同義ということになるが、
フントビッチとラベッツ(1991)は不確実性をより広く特徴づけて、不確実性を2つの次元を用いて分類した
  • 原因の次元
  • 種類の次元
さらに種類の次元には3つのタイプがある
  • 不正確性(分散により表現される);
  • 非信頼性(統計的信頼性により表現される);
  • 無知との境界(統計的には表現できない);
これらに加えて、「系統Pedigree」の概念を導入した。ある情報の「系統」とは、情報生産プロセスの評価の指標である。
 
著者はフントビッチとラベッツの次元の分類を参考に、原因と種類の次元を組合わせて、新しく次の6つの次元に分類する
  1. 不確実性の(起源となる)ところ
  2. 不確実性の性質
  3. 不確実性の範囲
  4. 認識された無知
  5. 方法論的(非)信頼性
  6. 価値の多様性
ここでは、前述の「系統」は方法論的非信頼性と価値の多様性に、不正確性と非信頼性は不確実性の範囲にそれぞれ対応する。
不確実性の場所は、ラベッツらによる分類での起源の次元に対応する。
 
 
1.不確実性の場所
著者によると、シミュレーションの実践は以下の4つの主な要素によって構成されており、
シミュレーションの不確実性はこれらのうちに位置づけられる。
  1. 概念的/数学的モデル化
  2. モデルへの入力
  3. テクニカルなモデルの実行
  4. 出力データの処理と解釈

 

 

2.不確実性の性質

不確実性の性質の次元では、不確実性は、知識の不完全性や可謬性の結果(認識論的不確実性)か、本来的な非決定性やシステムのもつ変動性に起因するもの(存在論的不確実性)かのいずれかで説明される。
 
実際の科学的実践においては、認識論的不確実性と存在論的不確実性は混在している。
例:気象予報の予測不可能性
気象予報の予測不可能性の原因には、自然システムのカオス性による予測不可能性と、初期値(つまり気象観測で得られたデータ)の不足による予測不可能性、気象モデルの非信頼性などがある。先の仕方で分ければ、カオス性による予測不可能性は存在論的不確実性、初期値の不足などによるものは認識論的不確実性ということになる。
著者によると、存在論的不確実性は不可避的だが、認識論的不確実性は軽減することができる場合がある。このような理由で、著者は不確実性の性質によって区別することには利点があると主張する。
一方、しばしば存在論的不確実性に対する認識論的不確実性も生じるし、現実にはふたつの種類の不確実性を完全に見分けられない場合もあるとしている。
 
もう一つの例:気候モデル
気候システムには本来的に備わっている自然由来の変動性があり、これは内部変動性と外部変動性に分けることができる。
気候変動問題で論点の一つである、現在の気候変動が人為的なものであるかどうかを示すには、気候システムの内部変動性を特定しなければいけない。これは観測によって直接決定できないので、内部変動性による存在論的不確実性を決定するには、複雑な気候モデルが必要となる。
しかし、モデルは理論的に完全ではないので、存在論的不確実性の幅の見積もりには認識論的不確実性が存在する。
 
 
3.不確実性の範囲
著者は不確実性の範囲の次元を、二つのタイプ、統計的な不確実性シナリオの不確実性に分ける。
 
  • 統計的な不確実性:統計学的な処理によって表現することのできる不確実性の範囲
  • シナリオの不確実性:統計的に表現できない不確実性。つまり、数学的な確立を出すことはできないけれど、 起こりうるイベントの範囲
統計的な不確実性の範囲は、統計学的な信頼性の情報によって評価することができる。これは通常自然科学の実践で用いられている統計的信頼性評価のことで、著者はこの指標を信頼性1(reliability1)と呼ぶ。
 
 
4.認識された無知
科学的シミュレーションの実践においては、つねに認識された無知が存在する。モデル構築者はなにについてわからないかを明確に示す必要がある。
一方、認識されていない無知も当然あるが、われわれはそれについてなにもいうことができない。
 
 
5.シミュレーションの方法論的な信頼性
不確実性の評価は、もしそれが従来的な統計学的手法で可能であれば信頼性1によって定量的に示すことができる。しかしながら、実際にはデータの不足などの理由で、統計的に評価することができない場合もある。このような場合でも、シミュレーションが政策に関連して重要である場合などには、その不確実性を評価することがもとめられる。そこで著者は、質的なシミュレーションの不確実性評価として、方法論的な信頼性評価を提案し、その指標を信頼性2(reliability2)と呼ぶ。
シミュレーションの方法論的な不確実性評価の対象として、著者はつぎの4つの条件を示す。
  • シミュレーションの理論的基礎づけ
  • シミュレーションの経験的基礎づけ
  • ほかのシミュレーションとの結果の一致
  • シミュレーション結果に関するピアコンセンサス
 
6.シミュレーションにおける価値の多元性
シミュレーションの不確実性はシミュレーションの前提となる過程におけるモデル構築者の価値判断を反映する。
モデル構築者のさまざまな選択にはなんらかの価値判断が伴っており、シミュレーションは価値付加的にならざるを得ない。